塵芥のアッシュ・閑話休題
―星の夜空に―


戦いを終え、槍をおさめた私の足元には、すでに絶命したリザードマンが、倒れている。
「アッシュ」
『彼女』が、私にたずねてくる。
それに短くうなずいて示す。
彼女は、抑揚の少ない表情でまた、うなずいた。
そして、仰々しく大鎌を構え、振るった。
空気を断つ音が響き、涼やかな鞘鳴りのようなものがあたりに響き渡る。
そして、リザードマンの死体から、何か白いモヤのようなものが噴き出した。
「いただきます」
彼女のランチ・タイム。
一つの魂が消える時。


何かを飲み込む音とともに、細い喉が大きく膨らみ、また、すぐにもどる。
彼女の足元に横たわるリザードマンの死体は、色の失った瞳で、虚しく宙を見つめている。
ソウル・イーターである彼女。
その彼女によって食された魂は、その後どのような運命を辿るのだろうか。
私がそんな他愛無い思考をしている間に、食事を終えた彼女が、こちらを見つめていた。
いつもの生気の薄い目で、まるで次の指示を持つ機械兵のように、ぼうっと。
「もうすんだか?」
「……うん」
私が訊ねると、彼女は小さくうなずいた。
彼女と共に旅するようになって少し経つが、彼女は本当に最小限のことしか言わない。
「先に行こう。まだ夜までには時間があるから、それまで距離を稼ごう」
「……わかった」
彼女は、短く応じた。


夜になった。
その日は、とある木陰で宿をとることを決め、私達は焚き火をたいた。
彼女の魔法によって生み出された炎は、薪を吸って、煌々と辺りを照らしている。
私はその火が弱くなったのを見て、薪を一本中に放りこむ。
そしてふと、彼女の方を見た。
今彼女は、泰然とたたずむ大岩の上に腰かけ、上に広がる夜空を見上げていた。
「星がきれいだな」
そのとなりに立ち、つぶやいてみた。
「そういえば、そろそろ夏か。……この大陸でも、天の川は見られるのかな」
「天の川……?」
彼女は、かすかに語尾を上げて、訊ねてきた。私はうん、とうなずいて、言った。
「ああ、天の川だ。星が沢山連なって、川のように見える。知らないのか?」
「……うん」
彼女が、小さなあごを、うなずかせる。
果たしてイブラシルでは見ることができないのだろうか、それとも、彼女が単に知らな
いのか。彼女ならば、どちらとも考えられる。
「7月、8月ぐらいになったら、こちらでも見れるかもしれない。今の光景よりも、ずっと綺麗だぞ」
「…………そう」
彼女は再び、空を見上げた。その瞳には動きが無いので、まだ数ヶ月の付き合いしか
ない私には、彼女がどんな思いで夜空を見上げているのかは、わからない。
「――もう夜も遅い。明日の旅もあるから、そろそろ寝とけよ」
私はそう言ってから、私だけでも横になろうと彼女に背をむける。
と。
「――もう少しだけ」
宙に放たれた彼女の台詞が意外に聞こえ、私はつい振り返ってしまっていた。
その先で彼女は、相変わらず動きの無い瞳で、夜空を見上げていた。
「もう少しだけ、見ていたい……」
「………そうか」
私はうなずき、彼女を置いて横になった。焚き火の炎は少し眩しかったので、火を
背にして寝転がる。
「………星が綺麗」
彼女のつぶやきには聞こえないふりをして、私は意識を閉じた。


○あとがき○
これが今週の小説です。
別に書いているやつ(長めの作品)があるんですが、それはアムスティア後
に到達後、アップしようと思うので気長に待っていてください。

実はこれは、使い魔アンケート実施中に書いていたものだったりします。
その時はまだ使い魔の名前が決まっていなかったので『彼女』となっている
わけですね。
時代的には、アッシュとエフィルがともにティターニアを出てすぐ。まだ
二人が、今ほどには打ち解
けていない状況でしょうか。
少し……何と言いましょうか、クサイというか、ナルシスト…とでもいいましょうか、
そんな雰囲気になってしまいましたが、温かい目で見てやって下さい(汗

>でも自分ではけっこう気に入っています(笑


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