第 八回後編(イブラシル暦686年9月)
登場人物
櫻海

共闘
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  一陣、風が轟っと吹く。それがかすかに、かがり火の様に燃る、焚き火の炎を揺らした。

 丘の上で対峙する二組の表情は、対照的だった。

 襲撃者側の二人組みはやや緊張感にかけた気楽な表情だが、襲い掛かられた方は真剣そのものだ。

 それもそのはず―― 一人には仲間たちに対する責務があるし、もう一人には請負人としてのプライドがある。

 引くわけにはいかなかった。

「アンタ達のおかげでオレの理論はまた一つ完成に近づけるよ。ありがとう」

「どちらが勝っても、良い戦いとなる事を期待しますよ!!」

 礼を言う邪の血族副長、檻馬と興奮した勢いで話しこむNo.5のクライアー。ある意味、場違いな言葉を漏らす二人に、二人も緊張をかすかに緩 め、苦笑を浮かべた。

「ふー・・・アンタらが何方さんかはよーく知ってるけどさ・・・」

 ぼやきながら、櫻海は槍を構え腰を沈める。

「・・・こっちはそれどころじゃないんだよねぇ。ま、来る者拒まず、だけどな・・・!」

「さぁて…桜組任侠コンビの力、とくと見せてやろう…!」

 ざっ、靴が砂をかむ音とともに戦闘が開始される。まずはアッシュが、ひときわ早く飛び出した。

 右手に握ったダガーを閃かせる――と思わせて、回し蹴りをクライアー・カードにむかって放つ。がっ。と鈍い衝撃音とともにクライアーはその一 撃を受け止めるが、衝撃に動きが麻痺した。続いて闇に溶ける黒い影。

「コンビじゃなくて、トリオ……!」

 不満げな声を漏らしながら大鎌を握っているのはエフィル。仲間はずれにされたことが不満なのか、大振りの一撃を檻馬めがけて放った。

「っとぉ!」

 声を上げながらのけぞる檻馬。それでもまだ表情には余裕が覗いている。

「櫻海だっけか? てめぇの相手は俺だぜ?」

 軽く櫻海を挑発しながら、檻馬はさりげなく地面に何かを設置した。

 それを迂闊にも踏み抜く櫻海。檻馬はニヤリとする。

「さぁて新戦術! 対人戦でのアラームの威力を見てみな!」

 けたたましい警鐘。響く哄笑。鳴り響く騒音に、その場の誰もが耳を防ぐ。

が。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「檻馬さん、誰もきませんよ…」

「あ、あら…?」

 クライアーの冷静な意見に冷や汗を流す。そして力をためる櫻海の姿を見つけ、檻馬はハッとした。

「気 をつけろ、クライアー!」

―― 櫻海は深く腰を沈め、呼気を吐く。

 この脚はただ速く駆け・・・

――地面を踏みしめる足に力を込め。

 この腕はただ強く撃つ・・・

――『アステリアの歌姫』を握る手に力を。

「今一度勝負だ、受けてみろ・・・」

 静かな気合とともに、槍を振り抜く――誠心一斉の力を込めて。

―― 三連斬!

 光芒の閃き。苛烈な一撃は三度の衝撃を与えクライアーを圧倒する。

「っぅあつ!?」

 痛みに顔をしかめ、クライアーはその場に膝をついた。悔しげに口元をひきつらせる。

「っく…勝利の女神はそちらに微笑みましたか…」

 負傷したクライアーは戦線を離脱する。もう障害とはなりえないだろう。

 一人残った檻馬には、ほぼ同時、アッシュが迫っていた。再度右腕の短剣を囮としたところでフェイントに体を沈ませ、まるたのような硬い足を 使った足払い。声を上げて、バラ ンスを崩し、空中に投げ出される檻馬、そこへエフィルの大鎌がひらめいた。

「…… やぁっ!」

 地上と空中からの二連携。――そして三連携目、槍をかまえた櫻海が迫る。

「これで決まりだ!」

  烈迅の気合とともに放たれた四連斬が、檻馬を粉砕した。



「あ いつらに手土産ができたなぁ」

 脇に抱えた宝箱を見つめ、ほくほく顔の櫻海。アッシュは苦笑する。

「タイミングがよかったな。なんであの二人が宝箱を持っていたのかは知らないが…」

 アッシュは知らないが、彼ら二人はクラン全体の初級の宝箱の開錠を引き受けていた。それがたまたま巡ってきたようだった。

「ともかく私も臨時収入が手に入ったし、意外といいものだなぁ、人斬りにあうというのも」

「いやいやまったく…って勝ったからいいようなもの、負けていたら散々だったけどな」

「たしかにな。いや、勝って本当によかった」

 実際、事前の予想では勝率は六割というのが共通の見解だった。――今回の勝利に運がからんでいたのは間違いない。もし最初の櫻海の三連斬が決 まっていなかったら、勝利の女神が微笑んだのはあちらだったのかもしれないのだ。

  マガの二人と戦った後、二人は場所を、最初の待ち合わせの大岩の前に移していた。

「……さて、と……ここでお別れだな」

「ああ、そうだな」

 約束の刻限だ。櫻海は少し顔に微笑を浮かべる。

「ちょいとハプニングに会ってしまったが、まあ楽しめたかな」

「ああ、少なくともこちらは大いに。ふふ、まさか櫻海殿と共闘できるとは思わなかった」

「こっちもな」

 愉快気にもらすアッシュ。対して櫻海は、やれやれ…といった様子で肩をすくめて億劫そうに見せた。彼が切り返しに成功したのは二度目。DDD に引き続いて二度目のPKKだ。

「それじゃあ達者で。ザナ達によろしく」

「おう、そっちもな。エフィル、じゃあな」

「………」

 狐につままれたような顔でエフィルは目を見開くと、軽く会釈をした。後ろで組んだ手の指先を、所在なさげにからませた。その姿に男二人は苦笑 する。

「それじゃあ私たちは行こう。……これからカタコンベへの転送相手を探さにゃならん」

「ああ――そっちもがんばれよ」

「ああ」

 闊達に笑う。こうして二人は分かれた。

 

 

「…… ふぅ、奴らとの合流まではまだ少し時間があるなぁ」

 つぶやき、櫻海は背後の大岩に腰掛けた。と不意にその懐の通信機から電子音が鳴り響いた。

「ん…?だれだ?」

 疑問の声を上げて、櫻海は通信端末を開いた。耳へと当てた通信機からは、聞きなれた少女の声が流れた。

『勝ったようね、櫻海』

「… イリスか?」

 『真銀の庭』の“討滅の熾焔”イリス・シアリングの声だった。櫻海は手に握る通信機に意識を集中する。

「さすがに情報がはやいな」

『気にしてはいたからね。勝利、おめでと』

「ん…… ああ、さんきゅ。――俺たちは、こんなところで負けてられないからな」

 硬い決意をこめて言うと、通信機の奥でイリスがかすかに笑う声が聞こえた。

『トールも倒した。そっちも今は私たちと同じ聖者の丘だね。……皆、徐々に追いついてきている。櫻海達も。 私たちもおちおちしてられない』

「そうだな。Requiemは今頃バルバシアだろうし。…そちらも着々と鍛えられているが、それを追う者達もいる。もちろん俺たちも、上を目指すさ」

 ――同じアストローナの冒険者たちは、決して一枚岩ではない。いや冒険者なのだから、ほとんどの者が己達のためだけに生き、競い合う。先ほど のマガのように……そして二人のように。

『… 複雑。追ってくるのがお前たちだなんて』

 通信機のむこうからか細い声が漏れる。とっさになんのことかわからず、櫻海は聞き返す。

「ん? なにがだ」

『いや。… なんでもない』

 それにイリスは頑なな声をあげ、返答をこばんだ。矢継ぎ早に二の句を告げる。

『それじゃあ、対人戦お疲れ様。私たちと同じ場所に並ぶ時、楽しみに待っているよ』

「ああ。――じゃあな。期待して待っていろ」

  ぴ、と音を立てて、回線が遮断された。通信機を懐に戻し、櫻海は息を吐いた。
 一瞬目をつむり、何かを思う。そして目を開くと、短く、こうつぶやいた。

「…… 時間だな」

 櫻海は転送の準備を開始する。
 雷神洞の中に残した仲間たちを呼ぶために。

 

 

 そう、こんなところで立ち止まってはいられないのだ。



オマケ
…Pirriiiiiiiiii
はい、こちら櫻海……あ、ファイスさん、今回の鍛冶武器の件はどーも…
…え、送品失敗? …こちらのアイテムが一杯?

  おそるおそる、意味がないのに、恐れるかのように、自分 が抱える宝箱を見つめる。

うぁ。

  小さなうめき声があがった。

あとがき
  今回はかなり好き勝手に書かせていただきました。会話などはもう
ほとんど創作ですね。一部、実際に会った会話もありますが。
 クライアーさんと檻馬さん、そしてマガの方ですが、すみません(平伏)。
 物語を盛り上げるため?に三流っぽく書いちゃってますね。アラーム失敗などは
神様自ら場を盛り上げるネタを投下してくれたんでしょうか。

> …次は私の番。待っていろよ、ベベロナミンC閣下

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